Tibet ASγ Experiment

太陽コロナ磁場・惑星間空間磁場の研究

太陽は周囲に強大な磁場をまとい、それは太陽風と呼ばれるプラズマの流れに乗って地球や他の遠い惑星にまで影響をおよぼしています。 太陽表面の磁場は地上の光学望遠鏡によって精密な測定が可能ですが、 太陽近傍のコロナ磁場や太陽地球間の惑星間空間磁場は測定が困難なためよく分かっていません。我々は、 超高エネルギー宇宙線が太陽によって遮られる現象「太陽の影」を用いて、太陽コロナ磁場や惑星間空間磁場の理論モデルの検証を行っています。 地球にやってくる宇宙線は、電荷を帯びていますので太陽の周辺や太陽地球間の磁場によって軌道を曲げられます。 これにより、地球で観測される「太陽の影」は、磁場の状態によって見え方が変わるので、 間接的に太陽や惑星間空間の磁場構造の検証が可能になります。

これまでの研究成果

チベット空気シャワー観測装置は高い統計量と高い到来方向決定精度を持つので、 1年ごとに太陽の影を観測することができます。

太陽の影の年変化

太陽の影の深さは、11年周期の太陽活動の影響を受けます。太陽活動が活発な時期は、複雑なコロナ磁場で粒子が散乱され、 太陽の影は浅くなります。太陽活動が静穏な時期は深い太陽の影が観測されます。

太陽の影

1996年から2009年までの年毎の「太陽の影」。色の濃さが影の深さを表している。2006年は欠測。
(M. Amenomori et al., Physical Review Letters, 111, 011101, 2013 [arXiv])


太陽コロナ磁場モデルの検証

1年ごとに観測した太陽の影の深さと、2種類の太陽コロナ磁場モデル (PFSSモデル、CSSSモデル) を用いた太陽の影のモンテカルロシミュレーションの結果を比較しました。 CSSSモデルを用いて、コロナ磁場の範囲を太陽半径の10倍とした場合のモンテカルロシミュレーションが観測結果を最もよく再現していることがわかりました。 これは今までの光学観測や衛星等による直接観測では検証不可能だった太陽コロナ磁場の重要な知見が「太陽の影」から世界で初めて得られたことを意味しています。

太陽の影 PFSS CSSS

1996年から2009年までの太陽の影の深さとモンテカルロシミュレーションの結果との比較。 一番上のグラフ (a) は太陽黒点数。2番目のグラフ (b) は観測 (黒) と3種類のモンテカルロシミュレーションの比較。 青はPFSSモデル (コロナ磁場の範囲は太陽半径の2.5倍)、緑と赤はCSSSモデル (コロナ磁場の範囲は太陽半径のそれぞれ2.5倍と10倍)。 赤のCSSSモデル (コロナ磁場範囲10倍太陽半径) が最も観測結果 (黒) を再現している。 一番下のグラフ (c) は、比較のための月の影。月は磁場を持たないので、観測が正しいかどうかの検証ができる。 丸は月の影の深さの観測結果で、点線は月の見かけの大きさを考慮した期待値。 観測結果は期待値とよく一致している。
(M. Amenomori et al., Physical Review Letters, 111, 011101, 2013 [arXiv])


惑星間空間磁場強度の評価

太陽コロナ磁場の外縁から地球までの惑星間空間磁場は、大部分は地球から太陽を見た視線方向に平行な成分で、 地球に向かってくる方向の時期と、太陽に向かっていく方向の時期があります。 この磁場による太陽の影のずれは、南北方向に現れ、ずれの大きさは磁場の強度に依存します。 我々は南北方向の太陽の影のずれから太陽地球間磁場の強度を見積もりました。

太陽の影 North South

2000年から2009年までの期間で、太陽に向かっていく向きの磁場の時期 (Away) と地球に向かってくる磁場の時期 (Toward) に分けた太陽の影。 Awayの時期は太陽の影は北に、Towardの時期は南にずれている。
(M. Amenomori et al., Physical Review Letters, 120, 031101, 2018 [arXiv])

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