Tibet ASγ Experiment

宇宙線エネルギー分布と原子核の種類

超高エネルギーとは1012から1016 eV (電子ボルト) 程度までのエネルギー範囲を指します。 全ての原子核の種類について足し合わせた (全粒子) 超高エネルギー宇宙線のエネルギー分布には4 × 1015 eV 付近にKnee (膝) と呼ばれる折れ曲がりがあり、 源での宇宙線の加速限界となるエネルギーを示唆しています。 さて、超高エネルギー宇宙線が作られる加速機構として最も有力な理論モデルは我々の銀河系内の超新星爆発に 伴う残骸中での衝撃波加速モデルであり、原子核の種類ごとの加速限界エネルギーは原子番号 (Z) に比例します。 従って、超新星残骸での衝撃波加速モデルを観測的に検証するためには、 宇宙線のエネルギー分布を原子核の種類ごとに分けて測定し、それぞれのKneeのエネルギーが原子番号 (Z) に比例することを確認すればよいわけです。

これまでの研究成果

チベット空気シャワー観測装置はKnee領域の宇宙線のエネルギーを高精度で測定できる大気の厚さ (標高) を選んで設置しました。 また、15 m間隔の検出器においては、粒子数の測定範囲を広げるために、 通常の光電子増倍管のほかにワイドレンジ光電子増倍管を併設しています。 これらにより、1014 eVから1017 eVという3桁に渡る広いエネルギー領域において 宇宙線のエネルギーを精度よく測定することが可能になりました。

宇宙線全粒子エネルギー分布

チベット空気シャワー観測装置の2000年から2004年の間に取得された5.5×107例のデータを用いて、 1014 eVから1017 eVの3桁に渡って宇宙線全粒子のエネルギー分布が得られました。 そして、べきの折れ曲がり (Knee) が4×1015 eVにあることがわかりました。
宇宙線エネルギー分布

様々なグループによる宇宙線全粒子エネルギー分布。 横軸はエネルギー (106 GeV = 1015電子ボルト)。 縦軸は宇宙線の頻度。 "This work" が我々の結果。3種類あるのは仮定したモデルによる違い。 我々の結果では4×1015eVに明確な折れ曲がりが見られる。
(M. Amenomori et al., The Astrophysical Journal, 678, 1165-1179, 2008)


宇宙線陽子 (水素原子核) のエネルギー分布

YAC (羊八井空気シャワーコア観測装置) の前身であるエマルションチェンバー装置とチベット空気シャワー観測装置を連動して、 1015 eVから1016 eVの宇宙線陽子のエネルギー分布を測定しました。 我々の結果はKneeあたりのエネルギーでの宇宙線の主成分はヘリウム原子核より重い原子核であることを示唆しています。
陽子エネルギー分布

宇宙線陽子のエネルギー分布。 横軸はエネルギー、縦軸は陽子の頻度。 "This work" が我々の結果。4種類あるのは仮定したモデルによる違い。 我々の結果は仮定したモデルによる頻度の違いが少ない。
(M. Amenomori et al., Physics Letters B 632, 58-64, 2006 [arXiv])

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